犬の膵炎(すいえん)の症状、原因や治療方法を獣医がアドバイス

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日診療数200件を超えることもある大病院で、日にち20−30件、犬猫を中心として4年間ほど診療しておりました。得意分野は神経疾患と抗がん剤治療です。働き始めてから短頭種の魅力に取り憑かれ、写真に写っているのトイプードルですが、現在は専ら短頭種(フレブル、ボクサー、シーズー)推しです。現在はアメリカで大学院に通っており、日がな症例と英語に揉まれています。現場からは離れていますが、飼い主様に正しい知識を伝えられるよう努力していきます。

犬の膵炎とは?

膵臓は消化酵素を十二指腸に分泌し食物の消化を助ける機能と、インスリンなどのホルモンを分泌する機能を合わせ持つ臓器です。この消化酵素を持った膵液がなんらかの原因で活性化され、膵臓自体の細胞に炎症が生じた状態を膵炎と呼びます。

膵炎には急性発症の急性膵炎と慢性の経過をたどる慢性膵炎がありますが、犬では急性膵炎が圧倒的に多くみられます。

犬の膵炎の症状

急性膵炎の症状は数日で劇的に生じることが多いため気がつきやすいですが、慢性膵炎の症状は間欠的で目立たないこともあるため、見つけることが難しいこともあります。

急性膵炎

急性膵炎は数日の経過で膵臓の炎症が悪化した状態で、重篤な場合死に至る可能性があります。

急性膵炎の主な症状は食欲不振、下痢、発熱、頻回の嘔吐および腹部痛です。腹部に痛みのある犬の多くが、お腹を丸めたり伏せの状態でお尻を高く上げる姿勢(祈りの姿勢)をとります。

また膵臓が十二指腸に開口している部分には胆嚢からの胆管開口部も存在するため、炎症が重度になると胆管の閉塞が起こり、黄疸が見られることもあります。

さらに炎症が全身に波及すると、腎不全や播種性血管内凝固症候群(血液の凝固機能に異常が起こる病態)が起こります。

慢性膵炎

慢性膵炎は膵臓の炎症が長期的におこっている状態で、犬よりも猫に多く見られます。

症状は食欲不振や間欠的な嘔吐などですが、他の消化器症状と区別できないことも珍しくありません。慢性的な膵臓の炎症は、インスリンなどのホルモンを分泌する細胞を破壊し糖尿病を引き起こすことがあります。

犬の膵炎の好発犬種

ミニチュアシュナウザーなどの脂質代謝異常がある犬は罹患しやすいと言われています。

犬の膵炎の原因

犬の膵炎の原因は非常に多岐に渡りますが、代表的なものを以下に示します。

1.食事的要因

高脂肪食や無分別な食事は膵炎の原因の中で最も多いと考えられます。経験則として、ゴミ箱を漁った犬が高脂肪分の食事を摂取したり、魚や肉から出た油を多量に摂取した結果、膵炎として病院に来院することが多いです。

2.膵臓に対する刺激

種類に関わらず開腹を伴う手術は膵炎を引き起こす可能性があります。また外部からの膵臓への刺激(打撲など)も、膵炎を引き起こす要因の一つと考えられています。

3.膵管周囲の炎症性疾患

膵管と同じ部位に開口している胆管の炎症や、膵管が開口している十二指腸の炎症(炎症性腸疾患)および腫瘍は膵炎を誘発する要因の一つです。

4.ホルモン性疾患

糖尿病、甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は膵炎を引き起こす可能性があると言われています。

クッシング症候群に関する詳細はこちらをご確認ください。

5.薬剤

薬の一部は膵炎を引き起こします。代表的なものはリンパ腫の治療薬であるLアスパラギナーゼなどです。

犬の膵炎の検査・治療

犬の膵炎は臨床症状、血液検査、エコー検査を組み合わせて診断を行いますが、全身疾患(腫瘍など)のスクリーニングのためにもレントゲン検査を行うのが普通です。血液検査は院内検査だけでわからないことも多く、犬膵特異的リパーゼという検査項目を外注する場合もあります。

膵炎の治療は重症度によって異なります。

軽度の場合は数日の入院または通院による、補液、嘔吐・下痢抑制剤の投与、痛み緩和のための鎮痛剤投与、場合によっては抗生剤の投与を行い、徐々に食欲回復をはかります。

軽度の場合3-4日で回復に向かうことが多く、治療費も3-4万ほどです(通院と入院で異なります)。一度膵炎に罹患した犬が再度膵炎になる確率は高いため、継続的な低脂肪食が進められます。

重度の場合は他の病気(胆管や十二指腸の炎症、または腫瘍)を併発していることが多く、基礎疾患によって治療の長さは変わります。入院は必須である場合が多く、併発疾患にもよりますが、死亡率は高いです。

犬の膵炎に関するQ&A

Q1.膵炎の予防に低糖、低脂肪のドッグフードは効果あるのか?

うたパパ
低糖、低脂肪に着目した膵炎予防にも効果があると言われる下記のドッグフードがあります。
犬心 http://dog-to.com/
低糖、低脂肪のドッグフードを食べさせる事で、膵炎の予防としてどんな点が期待できますか?
獣医師 吉野
膵臓から分泌される消化酵素のリパーゼは、脂質を分解するために分泌されるため、低脂肪の食事は膵炎に罹患した犬で推奨されています。

Q2.飼い主が出来る犬の膵炎対策を教えてください。

うたパパ
私達犬の飼い主ができる犬の膵炎対策として、普段からどんな事に気を付けたり、心がけるべき事を教えてください。
獣医師 吉野
膵炎の対策として大事なことは、基本的に人間の食べ物は与えないということです。人間の食べる食事は脂肪分が多く、膵炎を誘発する危険性があります。また、犬用のケーキなどの脂肪分が高いおやつも極力控えた方が良いでしょう。

一度膵炎に罹患した犬は、その後低脂肪のドッグフードを食べ続けることが推奨されています。低脂肪の手作り食を考慮する場合は、担当の獣医師と十分に相談してください。栄養バランスのとれた手作り食を作るのは非常に難しい場合が多いです。

生活習慣としては、特に子犬の時期に手の届く範囲に生ゴミを捨てるようなゴミ箱を設置しないことが大切です。

Q3.膵炎を治療しないという選択肢はありますか?

獣医師 吉野
軽度の膵炎であれば治療しなくても回復することがありますが、基礎疾患がある可能性も考慮し、治療を受けることをおすすめします。

犬の膵炎|獣医師体験談

獣医師体験談

症例は2歳オスのミニチュアピンシャーで、前日からの食欲不振を主訴に来院しました。院内で血液検査を行いましたが特に異常値がなく、嘔吐も認められなかったため、補液のみを行い、飼い主様も様子を見るとのことで帰られました。

しかし数日経って、やはり食欲が戻らないということで再度血液検査を行うと、炎症の数値と膵臓の値が中等度に上がっていました。入院をするか毎日通院するかを飼い主様と相談しましたが、犬の性格上入院が難しいとのことで、その日から4日間ほど補液と薬剤投与のために通院をしてもらいました。

3日めほどから食欲が徐々に戻り始めたため、低脂肪食の食事を与えながら経過を見ていましたが、1週間後には臨床症状はほぼ完治したため、通院を取りやめ治療を終了としました。

このように軽度な膵炎の犬は臨床現場では多く見られますが、老齢の犬ほど基礎疾患がある印象を受けます。また膵炎の血液検査は発症当日には数値が上がらないこともありますので、症状が引続くようであれば再度診察を受けることをおすすめします。

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日診療数200件を超えることもある大病院で、日にち20−30件、犬猫を中心として4年間ほど診療しておりました。得意分野は神経疾患と抗がん剤治療です。働き始めてから短頭種の魅力に取り憑かれ、写真に写っているのトイプードルですが、現在は専ら短頭種(フレブル、ボクサー、シーズー)推しです。現在はアメリカで大学院に通っており、日がな症例と英語に揉まれています。現場からは離れていますが、飼い主様に正しい知識を伝えられるよう努力していきます。